今から9年近く前、ママが長男を妊娠して順調にきていた時、ママが電話をしながらティッシュに唾を貯めては捨て、貯めては捨てを繰り返しているのを見て、一瞬、固まってしまった事があった。その時は、何事が起っているのか全く理解できなかった。
本当に奇妙な光景であったが、その後は、ママの妊娠中になじみの光景となった。
もちろん、今は笑って話せるが、あの当時、笑いでもしたらママの精神状態はおかしくなってしまうだろうと思うくらい、つわりに苦しんでいた。これは、そんなママが妊娠していた時の懐かしい話だ。
何かあったのか?大丈夫か?そう聞くしかなかった。
電話は長かった。ママは実家の母親と電話をしていたのだ。理由を聞きたくても聞けない。ただママが唾をティッシュにたらし、ティシュがびたびたになると、再び新しいティシュを取り出し、また唾をティシュにたらしながら、母親と普通に話しをしている。
普通に話しをしていると言うのが異様だった。何故なら、ママの行動は明らかに普通ではない。
積み上げられたティッシュの山は、なにか発情期の高校生を想像させる。
ママがやっと電話での話しを終えると、冷静に角がたたないよう言葉を選んで話しかけた。「どうした?何かあったのか?」そう聞くしかなかった。
妊娠中は味覚も嗅覚も別人になる
「唾が飲み込めない」ママが言った。よく意味が分からない。唾なんか意識して飲み込むものではない。溜め込まなくてはいいだけの話しではないのか?でも違うらしい。唾を飲み込めないと言うか、唾を全部、口の外に吐き出したいというような願望のような気もする。
「それって、つわりの症状なのか?」と聞くと「たぶん、そうだと思う」とママが答える。
ママがつわりに入って、まずご飯が炊けなくなった。ご飯を炊いているときに、その蒸気を吸ってトイレでゲロをはいた。以来、ご飯が炊けなくなった。普段食べていたものが食べれなくなった。ママの味覚が変わったのだ。
次に、私の事を「臭い」とのたまうようになった。ママに近づいた時に「うっぷ」といってトイレでゲロを吐かれた時は、悲しい気持ちと怒りと笑いが同時に込み上げてきた事を覚えている。
全て最初は冗談かと思って普通に対応していたが、自分の「臭い」については泣きながら懇願されたので考えを改めた。まだ加齢臭などは自分には関係ないと思っていたが、とくに加齢臭ではなくとも、ママの鼻は敏感になっていたのだ。
その時は、体臭対策に柿渋の石鹸を買って使っていたが、それでかなり臭いが抑えられたようだ。今はもう使っていないが、特にママから苦情はない。だから自分の臭いが変わった訳ではなく、ママの嗅覚が別人になっていたのだ。
その敏感なママの鼻を満足させるのであるから、柿渋の石鹸とは一定の効果があるのだと実感した。今後、自分が親父臭をぷんぷんさせた暁には、再度デビューを計ろうと考えている。
そして、唾が飲み込めなくなる
そうして、今度は唾が飲み込めなくなったと言う。
ググって調べてみると、「唾つわり」という言葉が出てきたので、決して珍しい事ではない事がわかった。自分たち以外でも、あのような光景が今日もどこかで繰り広げられているのだなと思うと、自分の見識の狭さを痛感するようであった。
まあ、そんなつわりの状況など、人に詳しくは話さない。話せば少しは楽になると思うのだが、ママは一切人に話そうとしない。事実、母親にさえ唾つわりだということは一切を話さなかった。
こうしてママと自分の共有の秘密の世界をひっそりとやり過ごすのも悪くはない。こうやって夫婦の絆は強くなっていくのだろうかと考えてみたりする。だが、これは自分が自営で、家にいる事が多いが故に出来た事で、家を空ける時間が長いサラリーマンなどはそうもいかないだろうとも思った。
もし、自分がサラリーマンであったら、ここまでママを理解できたかは疑問だ。
何をする訳でもないが、ただつわりに苦しんでいるママと一緒の時間があればあるほど、その苦しみの総時間をいろんな意味で感じる事になる。あれほどまでに長い時間を苦しんでいる姿を見るのは、一緒にいなければできない。その分、つわりが収まった時の安堵感も大きなものだ。
男は経験できないから、いろんなママの話しを聞くしかない
普段、唾つわりなんていう言葉に出会う事がないように、つわりの苦しみは男にとって経験も出来ないことなので、想像もできない事に違いない。妊娠中はママの精神状態も不安定で、出来なくなる事もたくさんある。そこに男が仕事でストレスを抱えると、しなくてもよい争いになる事もある。
夫婦で食事に誘われても、唾が吐き出せないのでお断りするしかないのだが、そんな時に「唾つわり」でなんて言える訳も無い。つわりなら我慢すれば何とかいけるのではないかと男は思う。だが、唾を吐き出せないという苦しみはまた別の次元の話しとママは思うだろう。男に理解が無いと「折角のお誘いに、そんな事で断るのか?」と言う事にもなりかねない。
そうしたとき、ちょっとした想像力だけではまかなえない、いろいろなママのつわりの苦労話をどこかで聞いていると、また気持ちも変わってくるだろう。そんなことにこの話が役立てば嬉しく思う。
ちなみにつわりの際の臭い対策には高価な石鹸は必要ない。安価なもので十分効果があるし、高価なものを購入する前に、安いのを試してからでも遅くはない。
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