子供が頭を打った。流血、そして救急車

ある晩の事。男の子供が3人も揃うと、その騒々しさと言えば凄まじいものである。

我が家の居間は、体を使って遊べるようにわざわざ何も置かずにいる。いや、怪我をしないように余計なものを置かずにいるというのが正解かもしれない。何故なら、どんな状態であっても、子供ははしゃぎ、ジャンプし、暴れるからだ。

しかし、何も置かないと言ってもローテーブルなどが居間の中心に鎮座していないと言うだけで、もちろん家具もあれば、収納も壁際には置いてあったりする。

そして、我が家の家具と言えば、古くからの家の伝統でアンティークな家具がどしんと構えている。これは父親の代まで木工の職人であった家系の影響で、現代風の家具を受け付けない体質なのだ。

そして、その重厚で堅い木を使った家具が悲劇を呼んだ。

突然、嫁の絶叫が起った。それも気が狂ったような絶叫だ。私は別の部屋にいたのだが、嫁のいつもと違う絶叫は良からぬ事が起ったということはすぐに察しがついた。

「どうした!」と叫びながら居間に向かって急ぎ、扉を開けた瞬間である。涙を流しながらこれまた絶叫する次男の頭を嫁が抑えながら、宇宙語を嫁が繰り返していた。嫁が頭を抑える手から血がポタポタと床に落ちている。それが尋常でない量だ。頭を抑えているタオルは真っ赤に染まっていた。その赤があまりにも鮮やかで、それが余計に事が重大であることを直感した。

「家具の角で頭を打った。」嫁が言った。アンティーク調の堅い家具の角だ。ここならそれくらいの破壊力はあるかもしれないと思った。

こう言う時、親と言うものは一方がパニックになると、もう一方は意外と冷静になる。「あたしんち」というアニメでも主人公の母親がパニックのときは、父親が冷静で、それが笑いを誘っていたりするが、まさしくそのような状況だ。

とりあえず、次男は意識があり、絶叫して泣いているので、ある意味安心できると心の中で思った。子供が頭を打った時の対処の仕方として、多くの医者は、まず意識があるかどうか、ぐったりしていないか確認しろというアドバイスが多い。そして赤ん坊でもそうだが、泣いていればまだ安心していいという意見が多い。逆に、泣きもせずキョトンとしている方が危険な状況になっている事が多いと聞いた事がある。不思議とそういう事は覚えているもので、こういったパニックになりがちな状況でも、冷静にそういったアドバイスを思い出す事ができた。

また、出血するととても危険な気がするが、頭蓋内出血などのように、出血が無い方が危険な場合もある。出血は血が止まれば問題ないが、頭蓋内出血のように、見えない所で出血して、それが頭の中に溜まっていく方が危険なのだ。まあ、こういったことは専門家の話を聞いておくべき事なのだが、まだ起ってもいない事を普通の人間はわざわざ調べたり記憶しない。だから、こういった実際に起った話しだと記憶に残りやすいので、これを読んでいる人は、少しでも覚えておくといざという時、何かの役に立つ事もあるかもしれない。

もちろん、出血の程度がある。体の血が全部抜けてしまうくらい激しい出血は危険だ。どちらにしても自分で判断するのはよくない。専門家の指示に従って症状を説明し、指示を仰ぐと言う事を真っ先にすべきだ。

だから症状を見る前に、すぐに受話器の子機をとりにいった。119番にかける為だ。もし緊急電話を躊躇するような微妙な症状であったら昼間ならかかりつけの小児科医、夜間や休日なら小児救急電話相談にコールしよう。受話器で#8000をプッシュすると最寄りの医療機関に電話が繋がる。携帯電話でも大丈夫だ。

119番をプッシュし、繋がるのを待った。繋がるとすぐに状況を説明した。これが嫁が一人の時であったり、自分が一人の時であったらこうは行かなかったかもしれない。嫁は多分、119番の前に自分と連絡を取ろうとするだろう。

状況を説明しながら、電話の向こうで対応した人も冷静に質問をしてくる。それに一つ一つ回答して行くうちに、次男が今、どういう状況であるのかを、自分自身も冷静に把握する事ができた。出血が酷い事を伝えたのもあって、すぐに救急車を手配してもらう事になった。

記憶が曖昧だが、救急車で病院に運ばれる事を前提で、健康保険証を用意するように言われた。そこで当然だが、お金もかかるなと思った。日本は健康保険があるし、子供の治療費は無料の事も多いのでついつい忘れがちだ。先の事まで考える余裕はないと思っていたが、その時は、救急車で病院に行った帰りは自分で帰らなければ行けないと直感的に思っていた。タクシー代と治療代が必要だ、と思った。

我が家の近所に救急病院があることもあって、いつも救急車が行き来する音を他人事のように聞いていた。サイレンが近くで止まると、うちの近所かなと思いながら窓をのぞいたりすることもある。

しかし、リアルに自分の家の前までサイレンが近づいてきて、まさしく音量が最大の時にサイレンが止まると言うのは初めての経験だ。こうして次男と自分は救急車に乗る事になった。救急隊員の方が車の中で救急対応をしてくれた。その時にはもう出血はほとんど止まっていたが、傷口が4センチほど開いていたので、そのまま近くの緊急病院で処置をする事になった。

あまり記憶が確かではないが、血まみれのタオルを捨ててもいいか聞かれた。特に断る必要もないと思ったが、こう言った小さな事で後々トラブルになることもあるのかなと思った。どちらにしても大変なお仕事だと思う。

こうして次男と自分の二人は病院に運ばれる事になった。

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